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大阪高等裁判所 平成3年(う)320号 判決 1991年11月07日

主文

本件訴訟を棄却する。

理由

一  本件訴訟の趣意は、弁護人岩嶋修治作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、本件事故は、被害者岩田の一方的過失によって起きたもの、すなわち、岩田が原動機付自転車を運転し、前方をよく見ないで被告人車の左側面直近を高速で進行したことが本件事故発生の原因であり、被告人は、左後方の安全を十分確認し、かつ喜美枝に対してもドアを開けることについての必要な警告をしたから、注意義務違反はないのに、被告人に過失を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というものである。

二  しかし、記録を調査すると、原判決がその掲げる証拠によりその判示する事実を認定したのは相当と認められ、当審での事実取調べの結果を併せて検討しても、原判決に事実誤認があるとは考えられない。

すなわち、証拠によると、本件事故現場付近は交通の頻繁な市街地であり、事故現場の南行車線は、幅約四・五メートルの見通しのよい直線道路で、その東側に歩道が設置されていること、被告人は、前方交差点の信号待ちのため停車した先行車に続いて停車した後、後部座席に同乗していた妻の喜美枝に降車を指示したこと、喜美枝がその指示に従って後部左ドアを開けた際、その先端部に左後方から進行して来た岩田車の右前方向指示器及びカウル右側部分が衝突したこと、被告人も喜美枝も、衝突するまで岩田車に全く気付いていなかったこと、被告人車の前後にはそれぞれ五、六台ずつの車が信号待ちのため一列になって連続して停止していたこと、被告人車のサイドミラー(フェンダーミラー)に異常はなかったこと、停止した被告人車から歩道縁石までは約一・七メートルあったことが明らかである。さらに、証拠、特に岩田美加代の証言によると、岩田車は、本件事故現場の北方約一五〇メートルの地点から発進し、前記南行車線上の、歩道縁石から約一・二メートルのところに表示されている車道外側線付近を時速三〇キロメートル弱で直進していたもので、信号待ちで連続停止している車の列の左横を進行し、被告人車の左後方近くに来た時同車の左側後部ドアが開いてこれに衝突したことが認められる。

そうすると、被告人がフェンダーミラーにより左後方からの交通の安全を十分確認しておれば、進行して来る岩田車を発見することができたはずであり、衝突するまで気付かなかったというのは、右確認が不十分であったからであるといわざるを得ない。

そして、被告人が、このように安全確認が不十分なまま、喜美枝に降車を指示し、同女にドアを開けさせたことが、本件事故発生の原因であると認められる。

所論は、被告人は、停車後まずルームミラー、次いでフェンダーミラーを見、更に左足をシートの上に乗せて体を回して後方を見たから、十分安全確認をしているし、喜美枝に対しても「ドアをバンと開けるな」と言って必要な警告をした旨主張する。

しかし、ルームミラーや運転席からの目視では、左後方が後続の停止車両や自車の窓枠等に遮られて十分見えないことが明らかである。しかも、本件事故現場付近が交通の頻繁な市街地であり、被告人車から歩道まで約一・七メートルもあったうえ、被告人車及びその前後の車はすべて信号待ちで停車していたという状況のもとでは、左側を単車等が進行して来ることは容易に予測されるのであるから、被告人としては、フェンダーミラーを注視して少なくとも喜美枝がドアを開け終えるまでは後方の安全を十分確認すべきであったというべきである。

また、証拠によると、喜美枝は、自動車の運転経験も、このような場所での降車経験もないうえ、日頃から車の乗り降りについては逐一被告人の指示に従っていたことが認められるから、被告人が「よっしゃ」と言って降車を指示したことで安心し、喜美枝自身の目で十分な安全確認をしないまま降車するおそれがあり、被告人もそれを予測できたと思われる。したがって、被告人としては、フェンダーミラーで後方を確認しながら喜美枝に指示すべきであって、「ドアをバンと開けるな」と言うだけでは、自動車運転者に義務付けられた同乗者の行為による交通の危険発生防止のための必要な措置を講じたとはいい難い。

なお、所論は、車道外側線から歩道までの幅約一・二メートルの部分は、総理府・建設省令第三号「道路標識、区画線及び道路表示に関する命令」第五条、第六条、別表第三、第四により、車道ではなく、単車の通行は許されないから、岩田車の通行可能な部分は約〇・五メートルしかないのに、原判決が、車体幅約〇・五八メートルの原動機付自転車の通行には支障のない状態であったと認定したのは誤りである、と主張する。

しかし、車道外側線は、道路構造令(昭和四五年政令第三二〇号)でいう車道と路肩とを区別するために両者の境界に引かれた区画線であり、その線の外側、すなわち車道外側線と歩道との間の部分も道路交通法上は車道にほかならないから、車両がそこを通行することは何ら違法ではない。

三  以上のとおり、原判決に所論のような事実誤認はなく、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により主文のとおり判決する。

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